オタクの独り言

観劇記録。感想と解釈。文が読みづらいのはデフォ。

BLUE/ORANGE

ブルオレ 、走り書きが見つかったので記憶と繋げて今更ながら感想を。

 

話が進むにつれてブルースの取り繕っていた建前が次第に剥がれていくのを見ながら、妙に納得している自分がいた。

私はかなりブルースに肩入れして見ていたけれど、それでも節々に稚拙さや愚かしさを感じたからだ。

一幕ではそれが研修医という経験不足や、若さからくる青臭さなのかと思っていたが、話が進むに連れて、あれは隠しきれない傲慢さが滲んでいたからなのだと思った。

改めて思い返すと、ブルースの行動は総じて自分勝手なもののように思う。

彼の優しさというは結局のところエゴでしかなくて、押し付け以外の何物でもない。ブルースは無意識のうちに優しさへの見返りを求めているから相手が自分の予想に反したとき、裏切られたと感じるのではないか。

もしかするとブルース自分の理想とする医者になるべくクリスを巻き込んだのではないかとすら思った。

でも人の優しさなんてみんなそんなもので、誰もが自己満足の世界で生きているのかもしれない。


そして話は変わるが、この話の至る所にある人種差別に関する言葉を聞きながら、やはり差別問題は難しい話題だと感じた。

差別をなくそうと意識すればすることは正しいことであるはずなのに、一歩間違えれば過敏になり過ぎてしまう。クリスは正にそのようだなと感じた。全てにおいて過敏で、何もかもを差別に結びつけている。

対してロバートは軽く差別を口にする。それを差別でないような顔をして。彼は明らかに差別をしているし、白人主義的面が多々ある。

けれど、例えばクリスがカリブ系だからとカテゴライズするところ。あれは過去に人種差別がなければ、それはただ単に地域性でくくっているだけだと捉えられるのではないかと思った(日本でいう県民性的なことなのではないかと)。

けれどそれも、彼らの歴史を踏まえた上ではすべき言動でないことは分かる。その歴史を知っていながらそれらの言葉を口にするロバートは、あえてその単語を選んでいるのだから、彼は間違っている。

過去を見なければ彼の屁理屈は、存外間違っていないのではないかと思うところもあった。だが過去を見なければ未来はないのだ。

だからこそ、差別というものは難しいのだと思うし、そこに躊躇なく触れて、それでいて何かしらの糸口を分かりやすく提示するわけではない演目ってすごいなって思った。

私は恥ずかしながらそれほどの知識を持ち合わせていないので、あくまで漠然とそう感じることしか出来ないのだけれど。


また、二幕でブルースが激昂する場面を見てからは、そもそも精神病とは何なのかということを考えたりした。

精神科医がいて精神病患者が病気だと判断されるのは然るべきことだと分かってはいるが、このお話を見ていると人が人を異常だと判断するのはあまりにも傲慢ではないのかと思った。

普通とは何か、どこからが病なのか。目に見えない境界線を探し出すのもまた、難しい。

 

果たしてクリスは何者だったのか。

はっきりとは分からないけれど、私はただのネジの緩んだ奇怪な、それでいてロバートの言うような、そんな男だったのではないかと思う。

結局のところ、この話の中で正しいのはブルースではなくロバートだろうと感じるのだ(その中での発言はどちらも愚かしくて正しいなどとは言えないが、診断という点において)。


ブルースがクリスに水をかけられた時に、彼の信念や思い描いていた理想が、現実という壁を前に、崩れ去っているのだろうと察した。

そしてその後クリスが病院を去ると、ブルースはロバートに媚を売り出す。その豹変した姿に、胸のあたりがぞわりとしたことを覚えている。

自分の先程までの行為をなかったかのように振る舞い、自分の地位のためにへつらう姿は、愚かで、それでいてとても人間らしくて。なんだか酷く残酷な現実を突きつけられている気がした。

経緯さえ違えど、こうして多くの人が理想と現実の違いに直面して、理想を捨て、見せかけの安全を追うようになるのだろうと思った。

もしかすると私は、彼をエゴイストだと思っていながらも、心のどこかでエゴを通して欲しいと思っていたのかもしれない。

 

それから、作品の最後に、ブルースがロバートへ「告発します」と告げたるシーン。

あの時の笑顔の、なんとも言えぬ不気味さ。間違いなく不吉な気配を纏っていて、それでいて生き生きとしていて、あの一瞬に詰め込まれた噎せ返るような人間らしさは素晴らしかった。

 

そして、クリスのあの視点の定まらない感じ、テンションの上がり下がり、何者かはっきりと分からず境界の上を生きているように見せる姿。本当にすごいと思う。シーンによって、彼の存在が小さくも大きくも見えた。箱の狭さもあって、圧倒的迫力。

 

演技を浴びていると言うに相応しい舞台だった。